BtoB企業を取り巻く営業・マーケティング環境は年々複雑化しています。顧客の情報収集行動がデジタル化し、購買プロセスが長期化する中で、従来の営業主導のアプローチだけでは限界が見えてきました。
こうした背景から注目を集めているのが「マーケティングオートメーション(MA)」です。MAツールを活用することで、リードナーチャリングの自動化、営業支援の強化、マーケ施策の効果測定など、BtoB企業が抱える様々な課題を解決できる可能性があります。
本記事では、BtoB企業がマーケティングオートメーションを導入する必要性から、具体的なメリット、ツールの選び方、注意点、成功事例まで、包括的に解説します。マーケティングDXを推進し、営業とマーケティングの連携を強化したい企業の担当者は、ぜひ参考にしてください。
BtoBマーケティングにおけるよくある課題とは?
BtoB企業の多くが、マーケティングと営業の連携において共通した課題を抱えています。
営業とマーケティングの連携における課題
営業とマーケティングの分断による非効率
多くのBtoB企業では、営業部門とマーケティング部門が独立して活動しており、情報共有や連携が不十分な状態が続いています。この分断により、せっかく創出したリードが有効活用されず、機会損失が発生しています。
見込み顧客の定義がマーケと営業で異なる
マーケティング部門では「資料ダウンロード」や「セミナー参加」をリードとして扱う一方、営業部門では「商談化の可能性が高い企業」のみをリードと認識するケースが多く見られます。この認識の違いにより、マーケティングが創出したリードの価値が営業に伝わらず、放置される結果となってしまいます。
案件化の基準が不明瞭で、引き継ぎにズレがある
マーケティングから営業への引き継ぎタイミングや基準が明確でないため、「まだ検討初期段階のリード」が営業に渡されたり、逆に「今すぐ商談したいリード」の対応が遅れたりする問題が発生します。このような引き継ぎのズレは、リードの取りこぼしや営業効率の低下を招きます。
リード管理と情報共有の課題
個人のExcelや名刺管理に依存した属人化
営業担当者がそれぞれ独自のExcelファイルや名刺管理アプリでリード情報を管理している状況が多く、組織としての資産として活用できていません。担当者の異動や退職時には、貴重な顧客情報が失われるリスクも高くなります。
顧客の行動履歴が社内で見えない
Webサイトの閲覧履歴、資料ダウンロード履歴、メール開封状況など、顧客のデジタル上での行動データが各部門で分断されています。これにより、顧客の関心度や購買意欲を正確に把握できておらず、適切なタイミングでのアプローチを逃してしまいます。
リードナーチャリングと効果測定の課題
担当者のリソース不足による継続フォローの困難
マーケティング担当者は施策の企画・実行で忙しく、獲得したリードに対する継続的なフォローアップまで手が回らない状況が続いています。特に中小企業では、この問題はより深刻で、獲得したリードが「塩漬け」になりがちです。
マーケ施策の効果測定と改善のPDCAが回せない
Webサイトの流入数、リード獲得数、商談化数、受注数といった各段階の数値がそれぞれ別々のツールで管理されているため、全体の流れを把握できません。どの施策が最終的な受注につながったかが見えないため、効果の高い施策への予算配分や改善といった意思決定が困難な状況です。
マーケティングオートメーション(MA)とは?
これらの課題を解決する手段として注目されているのが、マーケティングオートメーション(MA)です。
MAの定義と目的
マーケティング活動の自動化と可視化
MAとは、マーケティング活動の一部を自動化し、効率化・最適化を図るためのテクノロジーです。メール配信、Webパーソナライゼーション、リードスコアリングなど、様々な活動を自動化することで、マーケティング担当者はより戦略的な業務に集中できます。また、すべての活動がデータとして蓄積・分析され、施策の効果を可視化し、データドリブンな意思決定が可能になります。
営業支援との連携による効率的なリード活用
MAツールは、CRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)システムと連携することで、マーケティングで創出したリードを営業が効率的に活用できる仕組みを提供します。これは単なるツールではなく、マーケティングと営業の連携を強化し、収益向上を実現するための戦略的なソリューションです。
BtoBとBtoCのMAの違い
リードタイムの長さと複雑な意思決定プロセス
BtoB企業の購買プロセスは、BtoCと比較して長期間にわたる特徴があります。そのため、BtoB向けMAツールでは、長期的なリードナーチャリング機能が重視されます。また、複数の意思決定者が関与するため、それぞれの役職や関心事に応じたコンテンツ配信機能も重要になります。
個人ではなく「組織」にアプローチする点
BtoCが個人の嗜好に基づくアプローチが中心なのに対し、BtoBでは企業規模、業界、導入予算など、組織としての属性情報が重要になります。BtoB向けMAツールでは、企業情報の管理・分析機能がより充実している必要があります。
MAツールの代表的な機能
リードスコアリング機能
見込み顧客の行動(Web閲覧、資料ダウンロードなど)と属性情報(企業規模、役職など)に基づき、商談化の可能性を数値化する機能です。これにより、営業がアプローチすべき優先度を明確にします。
メールマーケティングの自動配信
見込み顧客の行動や属性に応じて、最適なタイミングで最適なコンテンツをメール配信する機能です。ステップメール、トリガーメール、セグメント配信など、多様な配信方法を自動化できます。
CRM・SFAとの連携・データ統合
既存のCRMやSFAシステムとデータ連携し、マーケティングで収集した情報を営業活動に活用できるようにします。この連携は、部門間での情報の断絶を防ぐための基盤となります。
Web行動のトラッキング・分析とパーソナライゼーション
Webサイト上での見込み顧客の行動を詳細にトラッキングし、関心のあるコンテンツや検討段階を把握する機能です。さらに、トラッキング結果に基づき、Webサイトの表示内容を個別に最適化するパーソナライゼーション機能を持つツールもあります。
BtoB向けMAツールの「選定・比較」で失敗しないための視点
MA導入を成功させるためには、自社の状況に合ったツールを戦略的に選ぶ必要があります。
BtoBビジネスへの適合性と拡張性
BtoBビジネスに特化した機能・設計か
リード数が少ないBtoBでは、リードを丁寧に育成し、企業単位でアプローチする機能が重要です。リード数が少ないことを前提とした料金体系や、企業情報(インテントデータなど)の管理・分析に強いツールを選びましょう。
既存システムとの連携性と拡張性
既に導入しているSFA/CRMとスムーズに連携できるかを最優先で確認してください。データ連携の頻度や項目数が多いほど連携は強化されます。また、将来的なビジネスの成長に合わせて、機能やリード件数が増やせる拡張性があるかも比較のポイントです。
運用体制と操作性
担当者のスキルレベルに見合った操作性か
多機能すぎるツールは使いこなせず、放置されるリスクがあります。担当者のスキルや知識に見合った、直感的な操作性であるかを確認しましょう。複雑なコーディング知識を必要とせず、マーケター自身がシナリオを作成できるGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)が充実しているかが重要です。
サポート体制と導入実績
導入時だけでなく、運用・定着までのサポート体制(電話、チャット、コンサルティングなど)が充実しているかを選定ポイントとして確認しましょう。また、自社と同業種や同規模の企業の導入事例が豊富にあるベンダーは、導入後の具体的な運用ノウハウを持っている可能性が高いです。
コストと費用対効果の評価
明確な料金体系と費用対効果の検証
MAツールの初期費用、月額費用、そしてリード数やPV数に応じた従量課金モデルなど、料金体系を明確に把握しましょう。また、導入前に設定したKPIに基づき、どの程度の期間でMAツールのコストを上回る成果が得られるか、費用対効果のシミュレーションを綿密に行うことが重要です。
必要な機能と価格のバランス
機能が多すぎるツールはコストが高くなりがちで、習熟にも時間がかかります。自社の課題解決に必要十分な機能が搭載されているか、欲張りすぎず価格とのバランスを見極めることが賢明です。
BtoB企業がマーケティングオートメーションを導入するメリット
MAツールを導入することで、BtoB企業は具体的にどのような効果を期待できるのでしょうか。
営業活動の効率化と質の向上
ホットリードの抽出による営業の優先度付けの明確化
リードスコアリング機能により、数多くのリードの中から商談化の可能性が高い「ホットリード」を自動的に抽出できます。営業担当者は限られた時間を、最も成果につながりやすいリードに集中して投入できるため、営業効率が大幅に向上します。
商談前に顧客の関心や行動履歴を把握
営業担当者は商談前に、顧客がどのようなコンテンツに関心を示し、どの程度の検討段階にあるかを詳細に把握できます。この情報により、より的確な提案内容の準備や、効果的な商談の進め方を計画できるようになります。
リードナーチャリングの自動化
フェーズごとに最適なコンテンツを自動配信
見込み顧客の検討フェーズに応じて、最適なコンテンツを自動的に配信できます。認知段階では業界動向、検討段階では製品資料、決定段階では価格情報など、段階的なアプローチが自動化され、商談化率の向上を実現できます。
未案件化リードの継続育成
人的リソースの制約により放置されがちだった「今すぐではないが将来的に見込みがありそうなリード」も、自動化により継続的に育成できるようになります。長期的な視点での顧客関係構築が可能になり、将来の売上機会を逃さずに済みます。
マーケティング成果の可視化と部門間連携の強化
どの施策・チャネルが成果に貢献しているか明確に
複数のマーケティング施策の効果を統合的に分析し、最終的な受注にどの施策がどの程度貢献したかを明確にできます。これにより、ROIの高い施策への予算配分や、効果の低い施策の改善・停止といった戦略的な意思決定が可能になります。
SFA/CRMと連携した情報共有の基盤形成
マーケティング部門で収集した顧客情報や行動履歴を、営業部門のSFA/CRMシステムと自動連携できます。これにより、部門間での情報の断絶がなくなり、顧客に対する一貫したアプローチが可能になります。
マーケティングオートメーション導入時の注意点と対策
MAツールは多くのメリットをもたらしますが、導入時には注意すべき点もあります。
ツール導入前の目的・戦略設計が不十分
なぜMAを導入するのかを明文化できていない
「なんとなく効果がありそうだから」といった曖昧な理由でMAツールを導入すると、運用が始まってから迷走してしまいます。「現在の課題」「解決したい問題」「期待する効果」を明文化し、社内で合意形成を図ることが重要です。
KPI設定が曖昧
目標を「リードを増やしたい」とするだけでなく、「リード獲得数を月○○件に増加」「商談化率を現在の○%から○%に向上」など、具体的で測定可能な数値目標(KPI)を明確に設定することが必要です。
運用体制と人的リソースの不足
担当者が兼務で運用に手が回らない
MA運用は専門的な知識と継続的な時間投入が必要です。他の業務との兼務では十分な運用ができず、ツールが放置される結果になりがちです。専任担当者の配置、または外部のマーケティング支援会社との連携を検討することが重要です。
設定やシナリオ設計の知識がない状態で放置される
MAツールは多機能である分、適切な設定やシナリオ設計には専門知識が必要です。初期設定のまま放置すると、本来の効果を発揮できません。ベンダーからの十分な研修やサポートを受け、運用開始後も定期的な見直しと改善を行うことが必要です。
コンテンツ資産の不足と組織文化の課題
ステップメールやホワイトペーパーが揃っていない
自動化されたリードナーチャリングを実現するためには、顧客の検討段階に応じた多様なコンテンツが不可欠です。コンテンツ制作は時間がかかるため、MA導入と並行して計画的に進める必要があります。
現場の営業がMAの活用意義を理解していない
営業担当者がMAツールの価値を理解していないと、提供されたリード情報や分析結果を活用してくれません。導入前に営業メンバーへの説明会を実施し、MAツールがどのように営業活動をサポートするかを理解してもらうことが重要です。
マーケティングオートメーション導入企業の具体的な活用例
製造業(中堅企業)
導入前の課題:営業任せの属人的対応
展示会や紹介で獲得したリード情報が営業担当者によって個別に管理されており、組織としての活用ができていませんでした。製造業特有の長い検討期間に対応するためのナーチャリング施策も実施できておらず、一度商談が進まなくなったリードは放置される状況でした。
導入後の変化:ナーチャリング自動化で商談数が1.5倍に
MAツール導入後、リードスコアリングによる優先度付け、検討段階別のステップメール配信などを実施。結果として、商談数が導入前比較で1.5倍に増加し、営業効率も大幅に改善されました。特に、長期間放置されていたリードからの復活商談が発生するようになり、機会損失の削減に成功しています。
IT系(スタートアップ)
導入前の課題:リードは多いが案件化しない
Webマーケティングで月間200件程度のリードを獲得していましたが、営業リソースが限られているため、すべてのリードに適切なフォローアップができず、商談化率は低迷していました。無料トライアルユーザーから有料版への転換率も低い状況でした。
導入後の変化:スコアリングにより受注率が大幅向上
製品利用状況とWeb行動を組み合わせたスコアリング、トライアル期間中の自動オンボーディングメールなどを実施。結果として、商談化率が5%から12%に向上し、さらに商談から受注への転換率も改善されました。限られた営業リソースをより効果的に活用できるようになり、売上成長率も前年同期比180%を達成しています。
人材サービス業(中規模)
導入前の課題:メール開封率・CV率が低迷
登録者向けのメール配信を主要施策としていましたが、一律配信のため開封率は15%程度と低迷。登録者の属性情報は豊富に持っていたものの、それらを活用したセグメント配信やパーソナライゼーションは実施できていませんでした。
導入後の変化:セグメント配信によりCV率20%アップ
職種・年齢・経験年数による詳細セグメンテーション、個人の転職活動状況に応じたコンテンツ配信を実施。結果として、メール開封率が15%から28%に向上し、求人応募率も20%アップしました。転職潜在層向けの長期ナーチャリングシナリオが効果を発揮し、6ヶ月後の転職実現率が従来比30%向上しています。
まとめ|BtoB企業にMAが必要な理由と、成功のための要件とは?
マーケティングオートメーションは、BtoB企業が抱える営業・マーケティングの課題を解決する強力なツールです。成功のためには、「目的」「体制」「活用」に加え、適切なツール選定が鍵となります。
MAツール比較やおすすめツールの選定も重要ですが、まずは自社の課題を正確に把握し、BtoB特有の購買プロセスを理解した上で、MAツールの選び方(BtoB適合性、操作性、連携性、コスト)を戦略的に判断することが成功への近道です。
マーケティングDXの推進とインサイドセールスの強化を通じて、BtoB企業の営業支援とマーケティング効率化を同時に実現しましょう。