日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」を運営する、弁護士ドットコム株式会社は2005年に設立し、2014年12月にマザーズに上場。上場をきっかけに、新たな事業として、2015年10月にウェブ完結型のクラウド契約サービス「クラウドサイン」をリリースしました。
日本では「契約締結は、紙とハンコで行うもの」という考えが主流でしたが、現在では契約を全てクラウドで完結させるサービスが徐々に広まっています。これまでの商慣習を変えてしまうサービスはどのようにして生まれ、広がっていったのでしょうか。
今回お話を伺った方は、過去に法律事務所で契約書交渉や法的アドバイスをする弁護士だった経歴を持つ、弁護士ドットコム株式会社 クラウドサイン事業部長 橘 大地氏です。
契約締結手続きにイノベーションを起こす
2015年10月にリリースしたクラウドサインは、これまで紙とハンコで手続きをしていた契約締結を、クラウドで完結させるサービスです。
企業間や、業務委託などの個人取引において、契約取引は必ず必要です。日本国においては、とりわけ紙とハンコという独自の商慣習があったので、諸外国に比べて契約スピードが遅い国でした。
そのことから、紙とハンコをクラウドに置き換えるリプレイスの効果が諸外国に比べて高い国だと捉えていました。つまり、日本においてはイノベーションの可能性が非常に高いため、簡単にかつ厳格に取引ができるというシステムであるクラウドサインを作りました。
具体的な仕組みとしては、契約書をアップロードして、相手先のメールアドレスに送り、相手がメールを開きボタンをクリックすると、契約書が開いて確認ができます。そして、問題がなければ同意をします。例えば「契約書の3条が問題がある」というやり取りができたり、場合によっては却下することもできたりします。
ーー 以前、契約の際にクラウドサインで契約書が送られてきて、「非常に簡単だな」と感じたものの、紙とハンコを使わなくていいということに、少し不安を覚えました。
もともと法律では「契約はハンコで行う」という決まりはありません。しかし、書面がないと、何かがあったときに言った言わないの話になってしまうので、しっかりエビデンスを残すことは訴訟手続きにおいて重要です。
しかし、紙の契約書の場合、重要な契約は管理部が保管していても、日々の発注に関しては現場の引き出しに眠ってしまっていることもあるため、紛失してしまう可能性があります。
それをクラウドにアップロードし、セキュアな環境で適切な閲覧権限を設定すれば、紙のようになくす心配はありません。さらに大企業ですと、自社のキャビネットでは足りなくなり、地方の大きな倉庫で管理している場合もあるのですが、訴訟が起きた際にはその倉庫まで出向き、探しだす必要があります。
最近では、紙とハンコの契約書のコンプライアンス低下が議論されており、 「むしろ紙とハンコの契約書は危ないよね」という意見も聞こえてくるようになりました。
ーー なるほど。クラウドサインはメリットが大きいと感じますが、契約締結をする相手先が「紙とハンコの契約書でないと難しい」と言うことはないのでしょうか。
実際に、クラウドサインに興味を持っていただきつつも「理屈はわかるけど、まだクラウド契約に移行するか検討中」ということもあり、今は過渡期だと思っています。
現在、導入企業数は1万5,000社を突破しました。 アカウント数はもっとありますが、同一企業で複数アカウントを持っていても一社と計算しています。送信社数はほとんどが企業で、全体で15万契約ほど結ばれています。
クラウドサインは、日本企業でペーパーワークに困っている業種に適しています。中でも金融、不動産、人材という、紙を使うことが非常に多いこの3業種の企業様は率先してクラウドサインをご使用頂いておりますね。
弁護士時代に課題と感じていた契約締結
ーー クラウドサインはなぜ作られたのでしょうか。
弊社会長の元榮も、もともと弁護士なのですが、弁護士時代に契約手続きに対して、より効率的に進めることは出来ないかと模索していました。
これは私の実体験ですが、数十億円規模の大型融資契約になると、 100人近い当事者が関係することがあります。契約交渉手続きには3ヶ月ほどかかり、ようやく締結となった時、 100人の当事者がいた場合ですと、100枚製本をして100人にお渡しし、さらに100人の当事者が割印を押さなければなりません。よって契約交渉で3ヶ月かかった後、契約手続きにさらに数ヶ月ほどかかってしまうような場合もありました。
契約を締結しないと融資がされませんので、 交渉が終わっても、融資の実行に何ヶ月もかかってしまいます。しかし海外の場合ですと、サインで済むので、 PDF で取り交わし、たった一週間ほどで済みます。
そもそも日本では、契約締結行為をハンコで交わすことが強制ではありませんから、締結をより簡単にスムーズにするためにも、紙とハンコよりもセキュアで、かつ収入印紙や郵送などにかかるコストが削減でき、さらに書類の保管場所が不要になる「クラウドサイン」を完成させました。
契約体験でさらに新規導入に繋がるマーケティング戦略
ーー クラウドサインをどのように広げていったのでしょうか。
クラウドサインは、相手先がいるサービスですので、例えば一つの企業様に導入いただき、その企業様が数千社へ契約書を送信すると、数千企業様に対してクラウドサインを知っていただけることになります。
また受信された方がクラウドサインを使って契約体験をされると「こんなに便利なものがあるんだ」 と感じてもらうことができるので、受信者側の企業様で導入を検討していただける可能性がでてきます。
そのため、大企業様にクラウドサインの導入を推進すれば、自然とこのサービスは普及するのでは?と当初考えていましたので、契約件数のポテンシャルが高い大手企業様から提案していきました。
しかし、やはり最初の一年くらいは、「導入をしていただいても、契約の相手先が理解してくれるかどうかわからない」という懸念はありました。最初は現場の営業も苦労しましたが、根気強くお話を続けさせていただいた結果、リリースして1年以内に野村証券様やクレディセゾン様など、大手企業様に導入していただく事ができました。
ハンコ文化という固定観念を変えてもらうために、空気感をつくる
ーー 他に実施したマーケティング活動はありますか。
クラウドサインは、コンセプトがよくバイラルで広がりやすいという構図にはあるのですが、「ハンコ文化を本当に捨てきれるのか?」という拭えない不安を突破する必要がありました。
そこで「ハンコよりもクラウドの方が安全」という理解をいただけるような広報活動にも力を入れています。
ーー どのようにしてメディアに取り上げられるのでしょうか。
何より、時流(トレンド)に乗ることが大事ですよね。 例えば、働き方改革の一環でリモートワークがありますが、東京に住んでいる人と沖縄に住んでいる人が、テレビ会議などで面接をすることがあります。
その際、契約締結のためだけに上京しなければいけない場合があるのですが、クラウドサインで雇用契約手続きができれば、本当のリモートワークが可能になります。
実際に、リモートワークを推進している企業様の多くはクラウドサインを使って頂いております。そういった企業様からメディアの方にクラウドサインのお話をいただくこともあり、メディアの方に対してもバイラルでサービスが広まっていっている印象です。例えば「働き方改革に適したテック企業」としてご紹介いただいたりしましたね。
メディアの方が「時流に合わせてテクノロジー企業を紹介したい」という場合に、すぐに思い出して頂けるよう常に情報を発信し、世の中の空気を変えていきたいと考えております。
パートナー戦略を重要視
さらにパートナー戦略を重要視しています。さまざまな企業と仲良くさせていただいていて、場合によってはプロダクトを連携することもあります。
例えば不動産業界ですと、沖縄から北海道までありますので、当社だけでアプローチするのは限界があると思いました。そこで去年、株式会社LIFULL様という賃貸メディアを企画運営している企業と提携をしました。
他にも別の不動産企業様とも提携し、一緒に不動産の IT 化を盛り上げていきましょう、ということでセミナーにも登壇しています。
クラウド間連携としては、Salesforce、Box、サイボウズとパートナーシップを組んでいます。例えばSalesforce ですと、 Salesforce 内のアプリを購入いただき、ダウンロードするとクラウドサインが利用できるというような連携です。
垂直統合でなんでも自社だけでやろうとしても限界があります。 オープンに関わりあって、自社のリソースと関連しない部分でスピードを上げていくオープンエコシステムは、外資系の SaaS企業にたくさん成功事例がありますので、 クラウドサインでも同様の構想を進めています。
ーー 他社サービスのアプリケーションから売れていくのと、直販売はどちらの方が比重が大きいのでしょうか。
現在は直接お申し込みいただく方が多いです。例えばkintoneからクラウドサインをご購入いただき、受信者側がクラウドサインを気に入っていただくと、直接当社に問い合わせが来るというようなサイクルになっています。
愛されなくなったら終わり。カスタマーサクセスチームやリーガルデザインの重要性
ーー 他社の競合サービスについては、どのようにお考えでしょうか。
一番大切にしていることは、「ユーザーに愛されるサービスを作ること」に徹底的にこだわることです。これが一番重要なことですので、他社サービスが何かをしたからこちらも何かするということは短期的に考えていません。
ーー 多方面に展開されていて隙がないように思いますが、課題はありますか。
多くの人が使うのは「優れたプロダクトだけでなく、愛されるプロダクト」だと考えています。例えば 様々な SNSやライブコマースなどは、大きな機能差で利用に差がつくのではなく、ユーザーに愛された方が支持されます。BtoC系サービスではその傾向が顕著ですが、ビジネスソリューションも同様だと考えています。
我々も、愛され続けるために、積極的な努力を惜しんではいけないと思います。クラウドサインはリリース以来、27ヶ月連続で毎月アップデートし、新機能が登場しています。ユーザーが課題と感じていることをお伺いし、新しい発想とスピードを持って改善しています。
また当社には、営業チームとは別に、カスタマーサクセスというチームがあります。お客様のビジネスを成功させるために積極的に支援する専属のチームです。
以前、「クラウドサインを導入したけれど、契約したい相手企業が同意してくれない」という課題がありました。そこで、カスタマーサクセスチームが相手企業様のご理解を得るための資料を作成し、解決したこともあります。
他にも、担当者がクラウドサインを導入したいと思っても、管理部が導入してくれないという時には、カスタマーサクセスチームが社内稟議書を作ったりもしますし、役員を含めた社内説明会に参加し、ご説明させていただいたというケースもあります。
このようにプロダクトの改善以外にも、積極的な活動をしており、私自身も SNSなどを通してユーザー様と直接会話し、ユーザー様の不満があれば改善してフィードバックをするようにしています。さらに、ユーザー様向けのおもてなしとして、食事やお酒を用意したイベントを実施し、直接ユーザー様と会話する機会を設けたりもしています。
ーー 他の企業では、顧客のビジネスを成功させるために、営業担当が顧客のサポートをすることもあると思いますが、あえて切り分けた理由を教えてください。
営業チームとカスタマーサクセスチームは、インセンティブが違う構造にあります。もちろん営業チームも心から顧客のビジネスの成功を願っていますが、顧客の拡大を追っているので新規の売上にインセンティブがあります。
カスタマーサクセスチームは、解約率を下げるという数字を追っています。こういった SaaSは、契約したけれど使わないということが往々にあります。カスタマーサクセスチームがサービスの利用率をウォッチしながら、サービスをご利用いただくだけではなく、業務が成功するまで支援いたします。
今このフェーズで、カスタマーサクセスチームが動くことが重要だと感じています。おそらく、一社が抱えている課題は他の会社も抱えています。つまり一社の課題を解決することは、多くの契約企業様の課題解決にもつながるのです。
解決された課題は、オウンドメディアやメルマガ、サービス内でのチャット機能など様々なタッチポイントで情報を発信しています。
他にも、当社ならではの取り組みとして、リーガルデザインチームがあります。例えば現在、ごく一部の業法にて「この契約は紙で交わさなければいけない」という法律がありますが、 そのことに対して省庁の皆さまに「紙で契約締結とクラウドでの契約締結での比較やメリット」についてご説明させて頂くこともあります。時代に合わせて法律やガイドラインを整備することも我々の責任だと捉えております。
紙で契約を交わさなければいけないというのは、エビデンスを残さなければいけないという意味合いでできた法律です。クラウドサインでは、クラウドサインの中にエビデンスが残りますし、利便性も高まりますので、法律の趣旨にもかなうと思っています。
このように、法改正を待つだけではなく「クラウドサインを利活用できる場面を増やして日本の生産性を向上させたい」という気持ちで積極的に取り組んでいます。
契約全体にコミットしていく
ーー 今後について教えて下さい。
契約全体にコミットしたいと考えています。
去年の10月に、 クラウドサインペイメントという新機能を作りました。これまでは、クラウドサインを使っていたとしても、契約を締結した後に何らかの業務が発生し、その対価である請求書を送って銀行振込をするという流れがありました。クラウドサインペイメントを使うと、クラウドサイン内で支払いまで完了することができます。
担当者が契約を受け取った後、支払権限がある経理などにパスする機能もあります。経理が支払い処理をすることで、契約と同時に支払いを履行することができるのです。
クラウドサインペイメントをご利用いただくには手数料がかかりますが、業界最低水準の2.0%に設定していますので、他に比べてご利用頂きやすいという自負はあります。
さらに昨年12月には、契約書を締結するだけではなく、締結した契約をいかに管理するかという管理機能を大幅に強化いたしました。例えば、来月消える契約は1万契約中300契約、そのうち自動更新がない契約が50契約あるといった場合に、「契約更新しなくていいですか?」ということが分かる契約管理システムです。
契約の流れとしては、交渉後に与信審査をして、契約書を作成して締結して入金、など契約前後にさまざまなステージがあります。クラウドサインは契約の全てにコミットすることで、日本の生産性向上の役割も担っていきたいと思います。
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