セールス・イネーブルメントとは?継続的に成果を出せる営業組織を作る!

「セールス・イネーブルメント」は、主に営業部門の成果向上をはかるためのトータルな取り組みのことをいいます。

営業部門の成績を上げる手段としては、従来から

  • 社外の専門家に依頼する「営業研修」
  • 営業部門のメンバー同士で実施する勉強会

などが、多くの企業で実施されています。

現在注目されているセールス・イネーブルメントは、こういった従来型の手法とどう違うのでしょうか。

今回は、セールス・イネーブルメントの定義、重視されるようになった背景、具体的な方法などについて解説します。

セールス・イネーブルメントとは? なぜ今注目されているのか

セールス・イネーブルメントの考え方と、注目されるようになった経緯・背景を紹介します。

セールス・イネーブルメントとは、「営業部門が継続的に成果を出せるしくみの構築」

セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)とは、直訳すると「営業部門が成果を出せるようにすること」というような意味になりますが、直訳では「イネーブルメント」という概念を正確に表すことができないので、日本語でも「セールス・イネーブルメント」と呼ばれることが多いです。

セールス・イネーブルメントの第一人者である山下貴宏氏の著書『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』(かんき出版)には、「成果を出す営業パーソンを輩出し続ける人材育成の仕組み」であると定義されています。

この定義からわかるように、セールス・イネーブルメントは「人」にフォーカスしていて、人材の育成を根幹としています。ただし、単なる研修やトレーニングの体制・プログラムではありません。

  • 営業ツールの標準化や顧客の正確な理解による、営業部門の生産性向上
  • 採用・マーケティングなど他部門との連携

なども欠かせない要素となっています。

1番目が「人」、そして2番目のキーワードは「デジタル」です。セールス・イネーブルメントではデータを蓄積し、分析して営業組織に活用することが不可欠です。営業部門のDXの一環と位置付けることもできます。

つまりセールス・イネーブルメントとは、営業部門が継続的に成果を出せるようにするための、全社的でかつ、体系的な取り組みです。

ノウハウの「属人化」など、BtoB営業部門の課題

BtoB企業の営業部門ではさまざまな課題を抱えています。たとえば以下があります。

営業担当者のノウハウの属人化
営業担当者の経験としての「どのように営業を進めたか」「顧客のニーズはどこにあるか」などの情報は、担当者だけが知っているという状態、これを属人化といいます。

営業成績に関して「できる人はできるが、できない人はできない」という状態が固定化してしまうことが、営業部門の抱える大きな問題です。

従来型対面営業からの転換
従来型の営業は、「営業担当者がアポイントをとって顧客の担当者と会う」ことから始まり、受注することで終わります。

しかしインターネットが浸透した今は、顧客の担当者が自ら検索して情報収集しているので、購入の意思は最初の商談のときほぼ決まっていることもあります。

このように「顧客の情報優位性」が増した現代に合う新たな営業のスタイルが求められています。コロナ禍で対面営業が制約を受け、この傾向が加速化しています。

顧客理解とソリューション提案の重要性
商品やサービスがわかりやすい場合や価格競争力がある場合には、営業担当者が人に会う機会を増やせば売上拡大できる、という部分もあります。

しかしBtoB向けITツールなどの営業部門では、顧客に「まず商材を理解してもらう」必要があり、さらに、提供する商材により「顧客の課題を解決できる」提案まで行います。

営業担当者は、正確に顧客を理解し、最も有効な提案をするための方法を確立させる必要があります。

SFAやCRMの十分な活用
すでにSFAやCRMを導入している企業では、顧客のデータを入力してはいるものの、十分に活用しきれていないこともあります。

リアルタイムでの情報共有、営業プロセスの分析、適切な顧客フォローなどを実施して、導入コストに見合う成果を上げることが求められます。

顧客フォローによるLTV(顧客生涯価値)の最大化
新規顧客の獲得と同じように重視されるのがアップセル・クロスセルなど既存顧客からの追加受注です。顧客が大企業であればLTVの重要性はより高くなります。

マーケティングなどの他部門を含めた分業と連携
現代は、「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」と、営業関連業務の分業が進むと同時に、部門間の連携が必要です。自社に最適な体制の確立にいたっていない企業も少なくありません。

セールス・イネーブルメントは人材育成をメインとしていますが、上記のようなさまざまな課題ともかかわっています。セールス・イネーブルメントを構築する過程において、あるいはその結果として、多くの課題を解決できます。

参考記事

セールス・イネーブルメントが広まった背景

セールス・イネーブルメントの概念は2000年頃にアメリカで始まりました。2010年頃にアメリカで広まるとともに日本にも紹介されました。

拡大の背景には、スマートフォンなどのモバイルデバイスの一般化と通信網の整備があります。2019年頃には、アメリカの大企業の多くが導入済となりました。

2020年以降のコロナ禍で非対面の営業活動が模索され、セールス・イネーブルメントはさらに注目を集めるようになりました。

コロナ禍は企業のデジタルツール導入とデータ活用を加速化させています。

「データドリブン」とは、勘や経験に頼るのではなく、データをもとに意思決定を行う方法をいいます。営業部門の場合なら、SFA/CRMで蓄積したデータを分析して、そこから有効な営業プロセスを導き出し、実行。その結果をフィードバックしてさらにデータ化するといった方法です。

「営業DX」「セールステック」といった言葉も広まっています。営業DXとは、デジタルツールを使って営業手法を変革すること、セールステックとは、デジタルツール活用で営業の生産性を上げることです。

セールス・イネーブルメントにもデジタルツールやデータ活用が欠かせませんが、営業DXやセールステックとの違いは、人材にフォーカスしているということです。

日本では労働人口が減少する傾向のなかで働き方改革も求められているため 、1人当たりの生産性を上げるセールス・イネーブルメントは今後重要性が増すと予測できます。

セールス・イネーブルメントの実践の手順は?

企業の現場でセールス・イネーブルメントをどのように進めていくかについて解説します。

セールス・イネーブルメントの目的

セールス・イネーブルメントが営業部門の様々な課題を解決できる可能性があることを前述しましたが、改めてセールス・イネーブルメントの目的を確認します。

成果を出す営業担当者を排出し続けるしくみの構築すること、これが最大の目的ですが、具体的な目標に落とし込むと、たとえば以下のようなものです。

  • 営業活動の経験値の属人化をなくし、ナレッジを標準化する
  • 営業担当者一人一人が「次に何をするか」が明確で、部門で共有されている状態をつくる
  • 営業担当者がスキルアップできる環境がある
  • 環境の変化に対応できる強い営業組織をつくる

セールス・イネーブルメントの実践例

セールス・イネーブルメントでは、具体的に何を実施するか、どの順番で行うかについては現場によってさまざまです。実際の施策例としては以下のようなものがあります。

セールス・イネーブルメントの施策例
※個別ケースによって実施するメニューや優先順位が決定されます。
営業データの蓄積と分析 SFAなどに蓄積された営業データを分析し、営業活動の成果を検証します。
営業プロセスの支援 顧客ごとに営業プロセスを明確にし、「今するべきことの明確化」「実施後の結果のFB」を共有します。
営業ツールやナレッジの共有 効果が高い営業ツールや手法を部門で共有・活用します。
営業担当者の採用力を強化 成果を上げられる営業担当者のペルソナを作成し、採用部門に共有。欲しい人材の確保に役立てます。
営業部門の新人導入研修 従来と違う点は、新人営業担当者が一定の成果を上げることを研修プログラムのKPIとして効果測定し、PDCAを回すことです。
営業担当者の継続的なトレーニング 営業部門に配属されるときだけでなく、継続的に営業スキルのトレーニングを実施します
営業担当者の評価システムの構築 営業担当者の活動を正確にデータ化して、公正に評価するシステムを確立します。

セールス・イネーブルメントの進め方

セールス・イネーブルメントを進めるポイントは以下です。

セールス・イネーブルメント部門を設置する
セールス・イネーブルメントは営業部門だけでなくマーケティングや人事採用などにも関わる部門横断的な取り組みなので、独立した専門部署を設置することが理想的 です。

企業にとって優先度の高い課題から進める
セールス・イネーブルメントの対象は幅広く、施策は多岐にわたります。どんな手順で進めるかは企業ごとに、喫緊の課題から優先順位をつけて進めていくのが効率的です。

外部のコンサルタントを依頼する場合が多いが、自社で進めることも可能
大企業ではセールス・イネーブルメントの費用対効果が高いので、外部の専門会社に依頼することが一般的です。中小企業ではセールス・イネーブルメントのマニュアルなどを参考に、自社で進めるケースもあります。

セールス・イネーブルメントのツール

セールス・イネーブルメントのツールとはどんなものでしょうか。

セールス・イネーブルメントに特化したデジタルツールもあります。

たとえば、

  • Senses
  • Handbook
  • Sales Doc
  • Enablement App

などです。

しかし既存のSFAやCRM、さらにMAなどを活用することも可能です。SFA/CRM/MAなどに蓄積されたデータをセールス・イネーブルメントの目的に沿って活用することができます。

セールス・イネーブルメントの事例

最後にセールス・イネーブルメントを構築した企業例と、シャノンの営業現場の事例をご紹介します。

セールス・イネーブルメントの導入事例

Sansan
名刺管理ツール「Sansan」を提供するSansan株式会社は、業績拡大の過程で大企業の顧客が増え、営業部門を強化する必要に迫られたタイミングでセールス・イネーブルメント部門を設置。営業部門の生産性の向上に取り組みました。

  • 営業部門の新人に対する、トレーナーによる指導やロールプレイングなど1か月の育成プログラム
  • 現場に出た新人のフォロー体制を確立
  • 営業プロセスを7つに分類し、それぞれのプロセスでやるべきことを明確化

などを実施し、新入社員のオンボーディング(定着)を数値化して人材育成でもPDCAが回せるようになりました。セールス・イネーブルメントの取り組み全体の結果として営業部門の生産性が向上しています。

NTTコミュニケーションズ
法人営業部門では2019年に「Data.Camp」というセールス・イネーブルメント組織を立ち上げ。平均年齢が40代後半という組織で新しい商材を取り扱うにあたり、新しい営業スタイルが必要となりました。

  • SFAのデータを整備して営業活動を見える化
  • 「Data.Camp」でデータを分析し、施策を展開
  • 現場の営業活動をデータ分析結果により支援
  • 成功体験を共有してもらう「シェアリングサクセス」の実施

まだ改革は途中ですが、データドリブンが定着するとともに営業担当者の意欲が増し、組織が強くなっています。

シャノンの営業部門、現場の取り組みは?

最後にシャノンの営業部門について、マーケティング部門との連携も合わせてご紹介します。

1)営業部門の新人のトレーニング
営業部門に配属されると、最初に外部研修を受けます。最終段階ではロールプレイング試験があり、合格しないと1人で商談に行くことができない制度になっています。

2) マーケティング部門と営業部門の情報共有
隔月に1回、両部門合同の勉強会を実施しています。セールス部門からは、競合製品の強み、営業としての心構えなどをこれまで勉強会のテーマとして扱っています。

シャノンではマーケティング部門のなかにインサイドセールスもいるのですが、若いメンバーも多いので、経験豊富なセールスメンバーのレクチャーは心強いです。

逆にマーケティング部門からはレポートについて、広告の運用方法など、シャノンのお客様となるマーケティング部門の人がどのような業務をしているかを伝えることが多いです。定期的に機会をもつことは、両部門が持っているナレッジの標準化に役立っています。

3)マーケティング部門と営業部門のデータ連携
SFA、MAのデータ連携にともなうコミュニケーションも重要です。マーケティングが手渡したホットリードが営業で商談化しなかったり、その逆の現象が起きたりするので、両者の差異をFBしてその後の業務に活用しています。

数値だけではなく、定性的な評価を知るために、シャノンでは毎月マーケティング部門と営業部門で定例のミーティングを実施しています。

マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスと、対顧客の担当者が専門化している今、部門間の緊密な情報共有も欠かせません。組織づくりでは分業と連携、どちらも欠かせない時代だといえるでしょう。

まとめ

本稿のポイントは以下の3点です。

  1. 「セールス・イネーブルメント」は、営業部門が継続的に成果を出せるしくみの構築です。「人」にフォーカスし、人材育成を重視します。同時に「デジタル」も欠かせません。
  2. セールス・イネーブルメントの実践では人材育成に関連する施策のほか、営業ツールやナレッジの標準化と共有も重要施策です。
  3. セールス・イネーブルメントは専門部署を設置して行うことが一般的です。
  4. セールス・イネーブルメントの構築により、企業では「生産性の向上」「組織の強化」など明確な成果が得られています。

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