インサイトフォース山口様

マーケターほど、役職や肩書が複雑多様な職業はないかもしれません。全体像の見えづらさから、理想と現実のギャップに悩む声をお聞きすることもしばしばです。

ある程度のキャリアを持ったプレイヤーの中にも、スキルや年収の先が見えないことに悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか?

そんなマーケターのキャリアの実態を赤裸々に説いた、山口義宏さんの新著「マーケティングの仕事と年収のリアル」が話題になっています。

「年収をあげるにはどうしたらいいの?」
「キャリアに対する閉塞感を打開するためにはどうしたらいいの?」

そんな疑問を解消するヒントを得るために、イベントに先駆け、マーケターのキャリアについての考え方を山口さんに伺いました。

成長市場であるBtoBマーケティングは働く環境として魅力的

インサイトフォース山口様

ーー山口さんはBtoBマーケティングの市場について、どのような印象をお持ちですか?

誤解を招く表現ですが、競争環境としては相対的には”旨味のあるおいしい市場”だと思っています。BtoCに比べ「人気が無い」「地味だ」という印象を抱いている方が多いと思うのですが……BtoB企業は、BtoC企業ほど本気でマーケティングに力を入れて投資している会社が少ない。そのぶん真面目に取り組んで投資すれば競争優位をつくりやすいのがBtoBマーケティングなのです。

まず、マクロトレンドから見るとBtoBマーケティングの需要は確実に伸びていく分野です。営業チームはあってもマーケティングの機能やチームが整っていない企業がたくさんありますから、潜在需要がとても大きい。また、個人のキャリアを考えても、BtoCのマーケティングの世界には、すでに著名なマーケターやプレイヤーの強い競合が沢山いますが、スタープレイヤーが未だ少ないのも、BtoBマーケティングの世界の魅力です。強い競合が少ないうえに伸びしろが大きい未開のマーケットといえます。

ーー競合が少ないということ以外に、BtoBマーケティングが働き手にとって魅力的な市場である要因はありますか?

予測可能性が高い分野なので、理詰めで考えたことが素直に成果になりやすく、基本原則が身につきやすいというメリットがあります。

BtoCの場合は消費者の”気まぐれな好き嫌いの心理や感性”を相手にします。理詰めではないぶん、理解も難しく施策成果の予測精度が低くなりやすいです。また、BtoCの大手企業はマーケティングコミュニケーションの施策数が多く、売上に対する各施策の貢献度合いを測定しにくいという現実があります。

一方で、BtoBビジネスでターゲットとなる企業内部の意思決定は基本的には合理性によってなされる比重が高いので、論理的に考えた解決策や提案が効きやすい構造があります。また、一般的にBtoBはマーケティング施策の数も少ないので、施策の効果測定をしやすいのも特徴。そのため、成功と失敗の施策の原因特定の解像度が高く、”個人の成長が促される”というのは、BtoBの大きなメリットだと思います。

専門性を持ちたいとか実績を作りたいといった、チャレンジをしたい方にとっては、ロジカルな努力の積み上げで「成果をあげた」という実績を作りやすいので、良い市場だと思います。当然甘くはないですが、BtoCで成果をあげるよりは予測可能性が高い領域です。

年齢に応じて変化する、マーケターに求められる役割

インサイトフォース山口様

ーーBtoBマーケティングという”おいしい市場”が存在しているにも関わらず、理想と現実のギャップに悩むマーケターが多いのはなぜでしょうか?「専門性を磨いたのに給料が上がらない」「支援会社で培ったスキルが事業会社で評価されない」といった声を聞きます。

BtoB企業では成果を適切に評価するものさしがないことが多いためです。そもそもBtoB企業内部にはマーケティング部門がないことが多く、マーケティングへの理解度が低いのです。マーケティング施策で成果を出すだけでなく、社内の上層部に絶えず説明し、理解を得るという社内マーケティングといえる立ち回りも重要です。

ーー貴著で書かれていた「加齢リスク」について、詳しく教えていただけますか?回避する方法はあるのでしょうか。

マーケティング職は、一般的に専門性が重要と思われがちですが、専門性によって評価される、転職で採用されるのは、よほど突き抜けたスペシャリスト以外は、せいぜい30代までです。40歳前後になれば、求められるのは専門性ではなく、有無を言わさぬ事業の成果実績です。端的に言えば、自分の存在によってどれだけ売上と収益を高めたかが問われます。25歳ならポテンシャルを見込んで採用してもらえるケースがあるけれども、30歳を超えると何かの成果がない人は転職のハードルが高くなります。

40代以降は専門知識だけでなく、あらゆる要素を総動員してやりくりして業績という成果を出すマネジメント人材としての需要が高まるので、社内政治的なスキルセットを持ち合わせている必要もあります。

もちろん個人的な志向性によって、マネジメントのキャリアではなく、専門性を極めるスペシャリストとしてのキャリアを選ぶ方もいるでしょう。しかし、多くの人は歳を重ねると「新しいことを学ぶのが億劫になる」という変化が訪れます。スペシャリストの専門知識は、その領域が尖っていて狭いほど、市場の需給変化も激しくなりやすいものです。つまり、専門知識の陳腐化に耐えられるように、市場変化についていける新たなインプットを担保し続ける覚悟が重要になります。

加齢に伴って選択肢が狭まっていくという状況を回避するためには、「次に選ぶ選択肢が、”次の次”へ繋がるか」という視点を常に持つ必要があります。

例えば、現状よりも上のポジションや高い年収でのオファーに限って、会社のブランド力は下がるということがよくあります。これは結果的に、その次の機会を狭めてしまい、キャリアをつくりづらくなってしまいます。年収と会社のブランドの両方をメンテナンスしてキャリアアップしていきたい方は、大局的に次の会社やポジションを選択していくことが大切なのです。

周辺領域への理解がステージをあげる

インサイトフォース山口様

ーーマーケターがキャリアアップをし続けていくためにはどんな視座が必要なのでしょうか?

マーケターのキャリアは大きく6つに分けられると思います。本の中で詳しく書いていますが、多くの人が「ステージ3」から「ステージ4」へのステップアップについて頓挫しやすい印象です。ご説明すると……。

ステージ3とは、マーケティングのなかの何かしらの専門領域のスペシャリスト。
ステージ4とは、マーケティング4P施策の全てに責任をもち、該当ブランド事業の収支にも責任を持つブランドマネージャー。

ステージ3の人は、あらかじめ定められた自分の仕事のスコープがあり、その領域外に責任を持ちません。例えばリサーチの専門家であれば、「プロダクトに関するクライアントの声を商品企画部にフィードバックするけれど、プロダクト改善のジャッジは自分の領域では無い」という立場にいます。

ステージ4に繰り上がれる人の特徴は、スコープを超えた提案を勝手にやるという立ち回りができることです。もちろん単なる意欲だけでは難しいことで、周辺領域に対する理解も必要となります。例えば営業などの隣接領域のナレッジをきちんと学び、うまく連携し、組織的な摩擦を起こさないように立ち回る力も必要です。

つまり、ステージ3の人がステージ4に上がるためには、意図的にスコープを超えた隣接領域にチャレンジをする必要があるのです。特に事業会社では、こういった領域をまたいだ社内政治的なスキルが求められるようになりますね。

ーー年収を上げるためにステージを上げていく上で、事業会社を選択するか、支援会社を選択するかも、キャリアを決める重要な選択だと思います。どのような目線で選ぶべきでしょうか?

「スキルで評価されたい」と思っているメンタリティの人は、事業会社には行かない方がいいです。事業会社は事業成果に対するインパクトで評価します。一方、支援会社はスキルが売り物なので、スキルアップと評価と給料が連動しやすくなります。

自分が事業にコミットするタイプなのか、スキルにコミットするタイプなのかを見極めることが必要で、前者の場合は事業会社、後者の場合は支援会社で働くのが良いのでは無いでしょうか。

BtoBマーケティングという未開の分野を楽しめるか

ーーロールモデルが少ないから、こういったことの判断も簡単にはできませんよね。

そうですね。判断するためには、人からの評価に耳を傾けることも大切だと思います。キャリアで悩んでいる人の中には、受け手からの評価を聞くことを怠っている人がとても多いです。やりたい・やりたくないは自分の中にあるものでも、得意・不得意は、自分以外の人だから分かることではないでしょうか。

特に若いうちは、少なくとも働き始めて3年ほど経たないと「自分に何が得意で、何が不得意か?」というのはわからないと思います。周囲からの評価が伴ってくるのには、5年ぐらいはかかると思うので、特に若いうちはマーケティングに関わる業務を食わず嫌いせずに全部やってみるのが、自分の得意・不得意を知る一番の近道だと思っています。

ーーBtoBマーケティングは、まだキャリアを決めかねているマーケターの方にはオススメの領域でしょうか?

そうですね、最初にお伝えした通り、BtoBマーケティングの領域はマクロで見ると有望な市場だと思います。一方で、BtoBマーケターの職能や年収の相場などまだ定まっていない世界でもあります。この荒野をサバイブすることを楽しめる人であれば、良いポジションが築けるチャンスも多いはずです。

強い競合は少ないですし、PDCAをきちんと回して成長につなげやすいという意味で、手堅い選択肢だと思いますね。

ーー山口さん、ありがとうございました!

“成長”をキーワードにキャリアを積んでいくなら、BtoBマーケターの仕事は有望という、とても励みになるヒントをいただけました。

イベントの基調講演では、山口さんからブランディングについてご登壇いただきます。ご興味のある方はぜひお越しください。

マーケターとしてのキャリアについてお悩みの方は、ぜひ山口さんの書籍「マーケティングの仕事と年収のリアル」も手に取ってみて下さい。

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